虹を蹴る 虹を蹴る

第三回「初めての試合観戦」

2019.08.23 Fri

「如月君も一緒にラグビー部に入ってたんでしょ? 大変だったね」
「俺は、別に」
 そう言うと、龍之介は目を伏せた。まあ、迷惑でしたとはさすがに言えないか。そう思ってから、瑞希はちょっと首を傾げた。
「でも……、榊野君って、なんでそんなことしたんだろ」瑞希は、ふと浮かんだ疑問を口にした。「もしかして、ラグビーそんなに好きじゃないのかな」
「それは……、ちょっと鋭いかも」龍之介は、ちらっと瑞希を見た。「あいつは小学生までサッカークラブにも入ってたんです。お父さんの方針だとかで、他にもいろんなスポーツをかじったらしいですけど、サッカークラブだけは中学に入ってからも時々顔を出してたみたいで」
「サッカー?」
 瑞希の脳裏に、白虹寮の屋上から見たあの高いキックが思い浮かんだ。ボールは違う。しかし、キックはキックだ。
「案外、ラグビーとサッカーって通じるところがあるんですよ。ラグビーは、正式名称をラグビーフットボールっていって、もともとイギリスでサッカーと同じくフットボールから派生した球技なんです。フットボールは手でのボールキャッチはOKだったらしいんですけど、獲ったボールをそのまま持って走った奴がいて――」
「足球(フットボール)なのに、ふてえ野郎だな」
「蹴球(フットボール)ですけど。まあ、逸哉の親父さんは生粋のラガーマンだったそうなんだけど」
 瑞希の脳裏に、ラガーシャツを着た逸哉似の若作りなオッサンが思い浮かんだ。たぶん、カツオとヤスシを足して二で割ったような暑苦しいお父さんなのだろう。
「逸哉は昔っからスポーツはなにやらせても上手くて、どこ行っても将来有望だとか抜群のセンスがあるとか言われて……。でも、サッカーは、他のスポーツの比じゃなかったみたいで、地元じゃ結構話題になって」
 龍之介は、気がない様子で皿を拭いている。
「……あいつさ、おんなじ夢を何度も見るんだって」
「夢?」
「うん。ボールを追いかける夢」独り言のように、龍之介は呟いた。「……あいつが追いかけてるボールって、どっちなのかなぁって時々思います。逸哉は、滅多にキックを使わないから」
 瑞希は、直感的にサッカーボールだと思った。ラグビーというと、ボールを追いかけるというより、ボールを持っている選手を追いかけるという表現が正しいように思える。サッカーなら、ボールを足先でドリブルするわけだから、こちらの方がボールを追いかけるという感覚には近いだろう。
「でも、そういうのってなんか変だね。だったら、ラグビー部なんか辞めちゃえばいいのに」
 しかし、瑞希の返答に、龍之介はなにも言わなかった。
 それにしても、好きでもない適当にやっているスポーツでそこまで成果を上げてしまうとは、なんたる人生イージーモード。挫折や失敗を経験したことなんか、一度もないに違いない。通りで、大人やら人生やら世間やらを舐めきっているわけだ。本当にいけ好かない高校生である。一刻も早く、誰かにへし折って欲しい。誰のために? もちろん、瑞希の溜飲を下げるために。
 空いた皿を洗い終わって、龍之介は央学のグラウンドへ去っていった。すると、龍之介と入れ替わるように、ヤスシがバタバタと駆け込んできた。
「待った、瑞希さん! ……ああよかった、なんとか朝飯に間に合った」瑞希が片付けかけている朝食の残りを見て図々しくも嬉しそうにそう言うと、ヤスシは瑞希の両肩を摑んだ。「ねえ瑞希さん、今日の昼に央学のグラウンドに来ていただけませんか? 対外試合があるんです。相手は、全国大会常連の清大付属ですよ」

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INFORMATION:

小説『虹を蹴る』全編は、集英社オレンジ文庫にてお読みいただけます。

『虹を蹴る』 (集英社オレンジ文庫)
せひらあやみ著  花恵ヨシ装画
http://orangebunko.shueisha.co.jp/book/4086802740

冒頭試しよみ漫画はこちらhttps://r.binb.jp/epm/e1_122670_18092019121422/