虹を蹴る 虹を蹴る

第八回「どこまでもきみを追いかける」

2019.09.27 Fri

 試合開始のキックオフは、桃工だった。
 キッカーは、逸哉たちと中学時代に因縁があるらしいあの佐川だった。佐川の蹴ったキックは、ちょうど逸哉の胸元へ収まった。その瞬間、示し合わせたように走り込んでいた桃工の巨体が、猛烈な勢いで逸哉にタックルをかけてくる。あっという間に、倒れた逸哉は集団の中で見えなくなってしまった。
「……うわ、やられたな。逸哉が狙い撃ちにされましたね」
「というと……」
「央学エースの逸哉にボールを捕らせてタックルで倒してラックの下敷きにしちゃえば、次のプレイに参加できなくなるでしょ。央学(ウチ)にペースを摑ませない作戦です」
「そ、それって……、対策は取れないんですか」
「逸哉がチームの中心なのは、隠しようがないですから。俺が桃工側でも、同じ作戦を取りますよ」
 ラックに駆けつけたスクラムハーフの蒼士が、急いでボールを出す。あのお調子者一年生の翔平が、今は真剣な顔でパスを受け取った。しかし、その瞬間激しくタックルを受け、ボールが零れた。笛が鳴る。最初のノックオンを喫したのは、央学だった。桃工ボールのファーストスクラムである。
 しかし、ここからが先週の展開とは違った。
「クラウチ、バインド、セット!」
 審判の声と共に、スクラムを組んだ両チームのフォワードが激しくぶつかり合う。雨が人工芝を濡らして足元は酷く滑るはずなのに、低く構えた央学のスクラムが押されることはなかった。
 耐えるしかない。真斗はそうとだけ言っていたし、誰もそこには反論しなかった。どれほど苦しくても、勝利のためにフォワードは耐えるしかないのだ。今までバックスのメンバーにばかり目がいっていた自分を、瑞希は馬鹿だと思った。その瑞希の目の前で――央学の八人は、本当に見事に耐え抜いた。
 桃工スクラムハーフが、ボールを出した。そこからパスを受けた佐川が、また逸哉を狙ってキックを蹴る。しかし、今度は逸哉が速かった。タックルを食らうより先に、弾丸のようなパスが飛ぶ。今度は翔平が上手く取り、大外を走る龍之介に渡った。桃工の巨体が、雨に滑る人工芝の上を、サイドへ向けて必死に追いかけていく……。
 それは、瑞希の瞼(まぶた)の向こうで、逸哉が描いた試合展開と完全に重なっていくように見えた。

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INFORMATION:

『虹を蹴る』の物語はまだまだ続きますが、楕円球LOVE!上での連載はこの回で終了です。
小説『虹を蹴る』全編は、集英社オレンジ文庫にてお読みいただけます。

『虹を蹴る』 (集英社オレンジ文庫)
せひらあやみ著  花恵ヨシ装画
http://orangebunko.shueisha.co.jp/book/4086802740

冒頭試しよみ漫画はこちらhttps://r.binb.jp/epm/e1_122670_18092019121422/