虹を蹴る 虹を蹴る

第八回「どこまでもきみを追いかける」

2019.09.27 Fri

「瑞希さん、やっぱり今からでも寮に傘を取りに行ってください。このままじゃ、風邪引いちゃいますよ」
 何度目だろうか。自分も濡れ鼠みたいになっているくせに、ヤスシがグラウンドから目を離さず言う。瑞希は首を振った。
「いいんです。ここで、みんなを観ていたいから」
 雨粒は、どんどん大きく重くなっていった。強風と大雨の中で、それでも央学の十五人は戦い続けた。
 龍之介が、タッチラインぎりぎりを駆け抜けていく。その走力は、心なしか清大付属戦の時よりも増しているように見えた。タッチラインの外へ龍之介を弾き出そうと、桃工の猛烈なタックルが襲う。龍之介は一人目のタックラーをなんとか躱したが、バランスを崩したところに突っ込んできた二人目は駄目だった。倒される前に、なんとかパスを出す。風に乗って、ボールが遠く飛んだ。そのスピードすらをもまるで狙ったかのように、逸哉は浮いたボールに追いついた。
 逸哉はそのままステップを切り、桃工ディフェンスの隙間を駆け抜けていった。背面方向へ戻らなければならない桃工より、すでにスピードに乗っている逸哉の方がずっと速かった。
 もう誰も、逸哉には追いつけない。
「行け、逸哉!」
 即座に立ち上がって逸哉の背を追う龍之介の声が、瑞希の耳に響く。桃工ディフェンスの最後の一人が追いかけるのを諦めても、龍之介は逸哉の背中を追った。
 そのまま、逸哉は見事にトライを決めた。

 猛烈に吹き荒れる強風の中で、逸哉がレフェリーと話す。コンバージョンキックを蹴るのだ。グラウンドの逸哉を、瑞希はただ一心に見つめた。
 その瑞希を、逸哉がちょっと笑って見返す。虚勢か、それとも、本物の自信? 瑞希にはもう、わからなかった。だから、ただ、逸哉の名前を口の中で呼んだ。
「……逸哉君っ」
 龍之介が水浸しのグラウンドに体を横たえて、風に煽られるボールを支えた。逸哉が蹴る直前、龍之介が手を引く。激しい風雨を切り裂くような美しい軌道が、ゴールポストの彼方(かなた)へ消えていった。
 先週が嘘のように――二度目の桃工戦は、央学の完勝で終わったのだった。

→続きは集英社オレンジ文庫『虹を蹴る』にて。

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INFORMATION:

『虹を蹴る』の物語はまだまだ続きますが、楕円球LOVE!上での連載はこの回で終了です。
小説『虹を蹴る』全編は、集英社オレンジ文庫にてお読みいただけます。

『虹を蹴る』 (集英社オレンジ文庫)
せひらあやみ著  花恵ヨシ装画
http://orangebunko.shueisha.co.jp/book/4086802740

冒頭試しよみ漫画はこちらhttps://r.binb.jp/epm/e1_122670_18092019121422/