おっさんずラグ~大切なことはみんなラグビーが教えてくれた。 おっさんずラグ~大切なことはみんなラグビーが教えてくれた。

森 康洋 Yasuhiro MORI
(カッシーナ・イクスシー 代表取締役社長執行役員 )

カッシーナ・イクスシーを再建した敏腕社長は
『One for all, All for one』な熱きラガーマン!

2019.07.15 Mon

「おっさんずラグ」第5回はラグジュアリー家具の代名詞でもあるカッシーナ・イクスシーの社長、森 康洋さん。会社もラグビーもスターだけでは成り立たず、縁の下の力持が絶対に必要と、敏腕社長ならではトークが面白すぎる!

───森さんは4年前、W杯の日本対南アフリカ戦を現地で観戦されていたとか。

 あの試合は鳥肌が立ったね。ワールドカップで1勝しかしていない日本と2度優勝している南アフリカの対戦だから、誰も日本が勝つなんて思っていなかった。ところが日本人が頑張るから、試合が進むにつれて会場が異様な雰囲気に包まれて…。終盤にキックでなくトライを選択した場面ではジャパンコールが起こった。僕も涙は出るわ、鼻水は出るわ…大変でした(笑)。

───テレビで観ていても泣けました。いまだにVTRで見ても涙が…。

 そんなラグビーワールドカップが日本に来るんだから、楽しみだよね。48試合もあるんだよ! 僕は今のところ、チケットは全然当たってないけど(笑)。

───ラグビーを始めたのは高校から?

 全国大会に出るような強豪ではなく、名もない田舎の普通の県立高校でね。

───慶応大学のラグビー部を目指した理由は?

 ラグビーをやっていると、一度でいいから花園や秩父宮ラグビー場で、何万人という観客の前でプレーしたいと夢を見るわけですよ。『ラグビーマガジン』で有名大学の選手の出身校を見ると、たいていは強豪校出身のエリートの名前が連なっている。ところが慶応だけは半分が付属校、半分は普通の県立高校の出身者。それで慶応なら「もしかして試合に出られるかもしれない」と。

───迷わずラグビー部の門を叩いた!

地獄の合宿の紅白戦。タックルにも倒されずボールを持って走る森社長。

 あんなに練習が厳しいとは知らなかったからね。入学してすぐ入部して、4年間監獄のような合宿生活です(笑)。8人部屋で、男ばかり100人ぐらいがいっしょに生活していました。

───どんな思い出がありますか?

 ひたすら厳しくて苦しい。いい思い出なんてひとつもないね(笑)。早稲田、明治に勝つためには彼ら以上に練習するしかない。それが慶応の原点にあるから、とにかく辛かった。

───でも続けたというのは何か魅力があったわけですよね。

 言葉にするのはとても難しいけれど、厳しいけど優しいというか…。僕らの頃は土のグラウンドで、練習するとぐちゃぐちゃになるんだけど、終わった後は竜安寺の石庭ぐらい美しく整備しなければいけない。泥にまみれたボールもピカピカになるまで磨かなければいけなかった。いい意味でピーンと張りつめた儀式のような緊張感があった。

───思い出に残っている試合はありますか?

 試合には出られなかったけれど、大学4年生のときは慶応が決勝まで進んで、7-6で明治に負けました。結局は有名なラガーマンにはなれなくて、そのときに自分のラグビーはすべて終わったなと…。

───1点差…、惜敗ですね。

 でもたった7年間しかやっていないのに、僕みたいなジジイになってもラグビーを追いかけている人がたくさんいる。

───それほど魅力的ということですね。社会の第一線で活躍されている元ラガーマンの皆さん、ラグビーのことには熱いです。

 それは何かというとラグビーの『One for all, All for one』。社会で働くということは誰かのために働くということなんです。集団のために自己犠牲をいとわない。「オレがオレが」ではなく、仲間のためにということが身に染みてできる人が企業のトップに行けるんじゃないかと、僕は思います。

───わかりやすいですね。

最後の夏合宿が終わって同期と記念撮影。今もバカ騒ぎをする大切な仲間。

 もうひとつは相手へのリスペクト。たとえ敵でもリスペクトする。そしてレフリーへのリスペクト。ラグビーはサッカーのように、大げさにファウルをアピールしたりしない。ケガをしても黙って立ち上がる。今は少し変わってきたかもしれないけれど、トライしても派手なセレブレーションをする人はあまりいません。

───確かに。

 ラグビー場は世界中どこでも、ロッカールームは別々だけどシャワールームはひとつ。ノーサイドってそういう意味で、終わったら敵味方関係なく最後は裸でシャワーを浴びてお互いを讃え合う。

───そのカルチャーは知りませんでした。

 集団スポーツの中でも一番人数が多い30人をレフリーがひとりで見る。ズルをしようと思えば本当はいくらでもできるけれど、しない。それは勝つために努力をするプロセスの中ではズルやインチキが通用しないのと同じなんですよ。だからラガーマンは世の中で理不尽な目に合っても、そういう方向には流れないんだよね。

───フェアであることが身に染みている。

 試合中は監督やコーチのアドバイスもない。自分で判断していいと思ったことをやる。たとえ失敗しても仲間がサポートしてくれる。僕は会社も同じだと思っています。大事なのは規則でなくて規律。規律というのは自分で考えて仲間とする約束だよね。上から与えられた規則とは違う。厳しいけれど寛容性はあるというのがラグビーなんです。

───厳しいけれど優しいというのは、そういうことなんですね。

映画好きでも知られる森社長。フレンドリーで社員からも愛される存在。

 『インビクタス/負けざる者たち』という1995年の南アフリカのW杯を描いた映画があってね。ネルソン・マンデラが27年間の投獄から釈放されて大統領になって、白人のスポーツであるラグビーを応援することで国が変わっていくという物語。寛容であることは社会を変えるってことだよね。

───自国開催で初出場、初優勝というドラマティックな歴史の映画化でした。森社長も業績の悪かったカッシーナ・イクスシーに入社して改革をされました。

 2010年に副社長に就任すると、本社との関係性が悪いからすぐに行ってくれと言われて、イタリアへ飛んだんです。そのときにロストバゲージに合って。しょうがないからジャージとジーンズでカッシーナへ出向いたら、相手はビシッとスーツを着ているワケですよ。

───想像しただけでもすごい状況ですね(笑)。

 彼らは日本の会社の株主でもあるから、業績が悪いと輸出が減って売り上げが伸びないうえに、配当金も入ってこないと、とても不機嫌で。ふと見た経営陣の耳が餃子耳(注:ラグビーや柔道経験者に特有の、腫れたり潰れたような形状の耳。スクラムやモールなどのプレーによる摩擦や圧力などによる)で、もしやと思ってラグビーの話を切り出すと「お前は信頼できる!」とすぐに打ち解けた。

───ラガーマンが第一線にいるというのは全世界共通なんですね!

 僕たちの間では、地球上には2種類の人種しか存在しない。それは男女でなく、ラグビーをやったヤツか、そうでないか。だからラグビー経験者はオールOK! 100%、受け入れます。それはみんなのために汗が流せる人だから。

───ワールドカップをこういう風に見たら面白いというアドバイスはありますか?

 ラグビーって才能のあるトップアスリートを15人集めたら勝てるかというと、そうじゃなんですよ。必ずどのチームにも地道にコツコツやってポジションを獲得した選手がいる。目立たないけれどいい仕事をしている選手の存在を知った上で試合を見ると、いいと思います。個人を追いかけるのでなくチームとして応援することをおすすめします。  

PROFILE:森 康洋 1955年7月15日生まれ、長崎県出身。高校時代にラグビーを始め、慶応大学でもラグビー部に所属。大学卒業後、レナウンに入社。レナウン米国法人社長、本社執行役員を務めた後、アクタス代表取締役社長、グレープストーン常務取締役を経て、2010年11月カッシーナ・イクスシー執行役員副社長に就任、2011年3月より現職。N.Y.駐在中の1992年には、慶應義塾ニューヨーク学院にラグビー部を創設してコーチをした経歴も。 Interview & Text:Hisami Kotakemori   Photos: Yuumi Hosoya